焦焔の街の英雄少女

著/八薙玉造 イラスト/中島艶爾 レーベル/MF文庫J

MF文庫J6月新刊。
作者の名前が記憶の片隅にヒットしました。
確認したら「鉄球姫エミリー」でスーパーダッシュ小説新人賞を獲った作者さんでした。
ああ、エミリーの人ね……と知ってる人はまず間違いなくどんよりとした気分になる事でしょう。
作者名が気になって読む前に確認したせいで、読み進めるのに緊張感を覚えることに。
というのも件の「鉄球姫エミリー」という作品が、主要キャラが次々とまったくの容赦なく死ぬお話でいわゆるダークファンタジーとよばれるジャンルだったからです。
どれくらい容赦ないかというと、敵の暗殺部隊を皆殺しにするのは当然として、味方もエミリーを守る従者が4人いて侍女の1人を残して全員死にます。
・将来を嘱望される若きエリート騎士
・その騎士と心を通わせる侍女
・お目付け役の百戦錬磨の老騎士
敵味方の戦う理由、各々の正義がしっかりと描写されていて、そんな魅力的なキャラ達でそれが一人、また一人と死んでいく様は本当に切なかったです。
特に騎士と侍女は悲惨で、エミリーが逃げるための影武者となって一緒に捕まり、それぞれ凄惨な拷問にあって姫様の場所をゲロって無残に死にます。
.
そんな作者が同じようなダークファンタジーを書いたわけで、かなりドキドキビクビクしながら読みました。
この子死ぬのかな、このおっさん死ぬのかな、いやもしかしてヒロインが死ぬんじゃね?というか主人公が死んだわ、みたいな('ω'`)
.
.
異世界を滅ぼした剋獣と呼ばれる化物が跋扈する現代において、剋獣王の1体・炎の王ホルスを討滅した実績を持ち人類の希望として戦うヒロイン・朱地杏。
異世界より伝承された五つの神剣の一振り、烈火剣で剋獣を討伐する姿は少女ながらにして既に英雄。
しかし英雄に求められる振る舞いをし続ける彼女の素顔は、胃薬を常備、日々納豆を食べて胃をいたわることに腐心する豆腐メンタルだったのでした。
剋獣を滅ぼすのが先か、世界が滅びるのが先か、はたまた杏の胃に穴が開くのが先か。
そんな杏を精神的にサポートするのが幼馴染の主人公ですが、必死に英雄を演じる杏の隣りに立てない事で劣等感に苛まれるもそれを徹底的に隠し、伝えたい想いも封印し、杏の気苦労が少しでも減るようにと「話の分かる優しい幼馴染」を演じ続けます。
こういう劣等感にさいなまれて力を渇望するお話は大好きです。
.
そして物語終盤、神剣の1本、土を操る王の剣・皇土剣を守るために戦い敗北し剋獣に喰われた主人公は、その中で皇土剣と契約を交わし、ついに杏と同じ高みへと登ります。
杏と共に土の王・サイタイを討滅した主人公ですが、その体と心は既に皇土の龍気に浸食を受けて半狂乱状態に。その手で杏を手にかけてしまいます。
というところで次回に続く。
.
まぁなんです、後書見たら2巻以降も杏は登場するみたいだし、というかタイトルにもなっているし、他のキャラも死ななかったのでエミリー的な死にまくりにはならなさそうです。
面白かった。