オーバーイメージ 3 人間失核(ワイト・ハート)

著/遊佐真弘 イラスト/さんた茉莉 レーベル/MF文庫J

MF文庫J1月新刊。
主人公・真白彩(ましろ・さい)が恋愛面だけ超絶鈍感といういつものアレですが、やりすぎでもはやイライラするレベル。
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この作品世界において彩くんの価値判断は絶対です。
どうみても歪んでる救世主願望なんだけど最後はみんな従います。
歪んだまま作品内では守られそれが正しいと評価され、バトルでは無双する最強系主人公って最近ちょこちょこ見かける気がするんですけど流行ってるんでしょうか。
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例えば主人公はオーバーイメージの敗退ペナルティを無かったことにするために戦っています。それも自分のそれだけではなく、今までの全敗退者のペナルティも一緒に無くそうとしています。
オーバーイメージは世界のバグであり、それによって与えられた不幸なペナルティは本来世界にあるべきものではなく一律に無かったことにされるべきだと彩くんは考えているからです。
そこには不幸なペナルティを受けながらも立ち直って頑張っている人の気持ちなどは全く斟酌されていません。
実際に彩くんの幼なじみ2人は彩くんの1回目の敗退ペナルティによってそれぞれの才能を奪われましたが、しかし既にそこから立ち直ろうと前を向いて新たな道を進み始めています。
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しかし彩くんはその不幸は本来受けるべき不幸ではないからと思考停止してしまい、全く耳を傾けようとはしません。
彩くんは自分の考えが絶対に正しいと信じ込んでいて、もはやオーバーイメージのペナルティをなかったことにすることが最高の選択肢であることに議論の余地がないことだからです。
それどころか幼なじみに、誰の責任でもないんだからくよくよ考えずに前向きにやっていこうよと言われると、上から目線で「普通の人はそう考えるだろう、でも俺にはそんな楽な考えできないから・・・」みたいに考えちゃいます。
ちょっとイタイです。
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そもそも彩くんのペナルティのせいで幼なじみたちは不幸になったのにその上から目線で偉そうな態度は何様のつもりなのかと。
このシーンに限らず字の文や内面描写からにじみ出てくる彩くんの選民思想&独善的で歪んだ正義、さらにそれを作品全体で擁護していることからくる不快感。
同じように歪んだ正義の味方ならFate衛宮士郎みたいに作品内ですらディスられるくらいに突き抜けていればいいんだけど、そういうことも無く曖昧な主人公の主観入りまくりの価値判断を読者はひたすら見せられ続けられます。
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俺は正しさの権化だ、悪いことはしない。
だが報復で悪いやつを殴るのはセーフだ。
なぜなら俺はルールを破ることを軽んじていないからだ。
軽んじているかどうかは俺の一存である。
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これが通る作品世界。
彩くんの主観がセーフ・アウトの基準であり、都合のいい例外もある「正義」なのです。これについては軽く指摘されるだけで基本的には正しいこととして描写されています。
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例えば才能ある道にすすめなくなった幼なじみの不幸を無かったことにするのはセーフだけど、死んだ人を生き返らせるのはアウト。なぜなら死人はそもそも希望できず、生き返ってほしいというのは残った人間の自己満足にすぎないから。
しかも彩くんはこの論理で相手を説得できないどころか論破されちゃいました。
つまり作者が読者を納得されることを放棄してしまっています(ラストの2択はあくまで「生きてる友人」と「死んだ友人」のどちらを選ぶかってだけ)。
なんだかなぁって。
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あと100歩譲ってこの意見を許容するとして、・・・主人公が一番自己満足で自己中で、自分の1回目の敗退によって起こった幼なじみへの不幸を無かったことにしようとしてるじゃない・・・
幼なじみはどちらももう前に進もうとしてるんだから不幸の取り消しなんて希望してないよね。
そしたら残るのは彩くんが責任を感じてるから無かったことにしたいっていう、彩くんが全否定したはずの自己欺瞞そのままじゃん。
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そしてオーバーイメージはバグだからそれに起因するものは全部悪いと言っておきながら、オーバーイメージで得た人間関係はなくしたくないという彩くん。
そんな彩くんに対して、矛盾があるからこそむしろ人間味があるよね、と優しい擁護が入る作品世界です。
正しい事そのものを追及していながら都合よく例外を作り、自分の価値観に相容れないものは頭ごなしに全否定し、上から目線で救済者たらんとする主人公・真白彩。
とてもじゃないけど好きになれるタイプの主人公ではありませんでした。
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良かった点。
ヒロインがとても可愛いです。
特に2巻で攻略し、3巻でメインヒロインに昇格した表紙の夢壊遊廻ちゃん。
イラストも可愛いです。