有川夕菜の抵抗値

著/時田唯 イラスト/りちゅ レーベル/電撃文庫

序盤は涼宮ハルヒの憂鬱のオマージュかと思ったら全然そんな事は無く、しかもとても面白かった。
ヒロインの有川夕菜はパラライザーと呼ばれる放電体質の持ち主。その体質のせいで過去に大切な人に大怪我をさせてしまったせいでツンケンすることで周囲に壁を作って人間関係から逃げていた彼女が、転校先の高私立校で出会ったやたらと自分に気をかけてくる人たちと青春することで、少しずつ変わっていくお話。
2巻が無いのが残念すぎる、それくらい良くできた中身のあるライトノベルでした。ラノベって言うよりむしろ一般小説に近いと思う。高校の読書感想文に使ってもギリギリ怒られないレベル。
以下ネタバレ。
ツンデレヒロイン有川夕菜のツンの原因がしっかりと描かれていて、周囲のキャラも老若男女問わずに真剣に生きていて好感が持てます。次第にデレていきながらもトラウマから脱却できず、優しさを求める心とそれを甘えと律する心の葛藤に悩むヒロイン、死に別れた恋人と重ねて夕菜にちょっかいをかける生徒会長、生徒に真剣に向き合う担任の先生、嫌味だけれど学校の責任者として筋の通った校長先生などなど、魅力的なキャラクターが多数登場します。特に生徒会長は、最後の最後で頭で分かったつもりになっていた「本当の意味で夕菜と過去の恋人が違う人間である」ということを、改めて再認識するシーンがあって、今まで夕菜のためにとやってた事が恋人の死の間際に何もしてやれなかった自分への言い訳、過去のやり直しをしようとする逃げでしか無かったと認識するシーンは、完全無欠の生徒会長キャラの多い昨今では珍しく、ヒロインともども弱さを克服する姿が描かれていて、人間らしさが出ていてよかったと思いました。
というわけでお勧めです。